大きな古時計という歌があります。「おおきなのっぽの古時計/おじいさんの時計……いまはもう動かない/その時計」

 父が大切にしていた置時計、いつから動かなくなっていたのでしょう。母が亡くなる前(昭和28年)には動いていたのでしょうか、私はその時計が動いていたのを見た記憶がないのです。何故ならいつも「おばちゃん今何時」と当時同居していた伯母に時間を聞いていたからです。置時計の裏には「中川君 戦友」と刻まれています。昭和30年ころの思い出ですから、戦争が終わってまだ10年。その時計の裏に刻まれた文字に、子供心に何か特別なものを感じていました。

 昭和31年父が亡くなり、その時計を義父は処分せず、私達兄弟が引き取られた寺に持ち帰ってくれました。しかし、その時計は修理もされずインテリアとして書棚に飾られていただけでしたが、父が傍にいるようで嬉しく思いました。

 能勢の寺を弟に任せて私は大阪に出てきましたので、その古時計は能勢の寺にありました。20数年前、弟に無理を言ってその時計を譲り受けたのですが、やはり私も今日までガラスケースに入れたままでした。

 テレビなどで古時計の修理番組を見ると、問い合わせて修理をしようかと思ったこともありましたが、思い切りが付かず今日に至りましたが、先日「空堀の『まさや』という時計屋の親仁さんは修理が巧い」と聞いて、駄目で元々と60年も動かない古時計を持ち込みました。

 この店は昭和50年1月、師僧から頂いた給料袋をそのまま持って結婚指輪と婚約指輪を買った店でした。40年ぶりに暖簾をくぐりました。

 数日後「時計の修理が終わりました」と連絡がきました。力強く時を刻む音は正に父の鼓動です。この時計にどのような物語があるのか解りませんが、平和を願いつつ毎朝6時ネジを巻いて一日が始まります。

▲沖縄遺骨収集 ▲モンゴル慰霊供養


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